②むし歯治療

むし歯治療の成功率、知っていますか?

歯の治療ってどれくらい持つと思いますか?治療したらずっと持つと思いますか?長持ちするだろうと思うのではないでしょうか?私も学生または大学卒業した直後はそう思っていました。しかし、毎日患者さんのお口を拝見していると、治療のほとんどが過去の治療のやり直しで、日本のむし歯治療の現状を毎日痛感しています。


患者さんのなかでも、「いつまでも治療を繰り返して、ずっと歯科治療を受け続けなければいけないと思っている。」「将来は入れ歯だと思っている」という諦めのような話を聞くことがよくあります。


では、むし歯治療って、どれくらい長持ちするんでしょう?歯科医院で治療を受けるときに、どれくらの成功率か聞いたことはありますか?ほとんど、無いのではないでしょうか?


いろいろな理由がありますが、そのひとつの原因は成功率を調べた研究データがほとんど無いことが考えられます。


その限られたなかでの情報ですが、日本で行われたむし歯治療の10年成功率を調べた貴重なデータがありますのでご紹介します。その結果は驚くべき数字です。

参考文献:青山ら,口腔衛生会誌 J Dent Hlth 58: 16-24, 2008より引用

なんと、10年成功率約55%10年経つと、約半数が治療のやり直しになっています。このデータはあくまで1つの研究結果の報告ですので、患者さんのお口の条件や歯科医院の提供している歯科医療の質によって変わるので一概には言えませんが、むし歯治療は私たちが期待しているほど長持ちしないと言えるのではないでしょうか?

治療の良しあしがわかるには10年かかる?

10年成功率、約55パーセント。受け入れがたい数字ではないでしょうか。感覚的にそんなはずはないと思うでしょうか。

これはあくまで平均なので当てはまらない方も、もっと大変な思いをされている方もいると思います。

また、10年という歳月も成功率を実感しにくくしていると思います。3年ではそれほど成功率が低くないことから、10年経ってはじめて、治療の良し悪しがわかると言えるかもしれません。

治療を繰り返しながら歯を無くしていく

悪くなったらその時やり直せば良いじゃないか、という考えもあるかもしれません。将来歯を失ってもいいや、という方はそれで良いかもしれません。

その一方で、歯を失いたくない、という方にとっては大問題です。なぜなら、治療をやりかえなければならない時の多くは、むし歯か進んでいて、トラブルが起きる回数が多いほど、歯を失う可能性が高くなるからです。

むし歯治療は、むし歯が大きくなるほど治療の難易度が上がり、成功率が下がります。

また、治療を繰り返すほど詰め物や被せ物が大きくなり、ふたたびむし歯になったとしても、目で見てもエックス線写真でも発見しにくくなります。つまり、見つかった時は手遅れになる確率が上がるのです。

このように様々な条件から、治療を繰り返すほど歯を失う確率が上がり、まさに負のスパイラルになっています。

海外の研究データは成功率が高い?なぜ?

その一方で、海外の研究報告を見てみると、10年成功率が約55%というような低い成功率の報告はあまり見かけません。


クラウンについては先の約55%に対し、75~97%、ブリッジについては約33%に対し、84~92%という報告があり、それなりに長持ちしています。


どうしてこんなに違うのでしょう?


参考文献:

Leempoel et al. An evaluation of crowns and bridges in a general dental practice. J Oral Rehabil 12: 515-528, 1985

Creugers et al. A meta-analysis of durability data on conventional fixed bridges. Community Dent Oral Epidemiol 22: 448-452, 1994

Scurria et al. Meta-analysis of Fixed Partial Denture Survival: Prostheses and Abutments. J Prosthet Dent 79 (4), 459-64. Apr 1998.

知識と技術のレベルが違う

根本的な原因は治療する歯科医師の知識と技術の違いでしょう。むし歯は完全に除去できているのか、形はきれいに整えられているのか、型どりの精度は良いのか、接着剤がうまくくっついているのか。どこかに問題があれば、後々トラブルが起きる可能性が高まります。


何を基準にむし歯がとれていると判断するのか?どの材料をどのように使うと精度よく型どりできるのか?どの材料がよくくっつくのか?知識の違いが結果に影響を及ぼします。


また、歯科治療は手を動かし、精度よく治療する必要があり、どんなに素晴らしい知識と診断があったとしても、それを実行できなければ病気を治せません。


成功率の高い報告は、欧米の専門医またはそれと同等レベルの歯科医師が行った治療であることが多く、教育レベルに差があることが考えられます。

日本の歯科医師は超低コストで頑張っている

治療が長持ちするかどうかは、知識や技術の違いがいちばんの原因ですが、それを発揮できる環境、つまりかけられる時間やコスト、歯科医療システムの違いも大きく影響を及ぼします。


例えば、日本と海外の治療コストを比較すると、約1/10から1/20であり、このようなコストで日本の歯科医師が欧米の専門医と同じ治療成功率にするのは難しいと言わざるを得ません。


日本の歯科医師のほとんどは、欧米で行われているように、もっと時間をかけて丁寧に治療をしたいと考えていますが、実際には理想的な治療手順をの多くを省略せざるを得ないのが現状です。

参考資料:医療・介護給付費推計について 第6回社会保障国民会議サービス保障(医療・介護・福祉)2008年7月31日

東京医科歯科大学大学院医療経済学分野 川渕孝一 より引用

もちろんコストを度外視して赤字で行えば成功率を上げることができるかもしれませんが、持続可能な医療システムという点では難しいでしょう。日本の歯科医師が手を抜いているから成功率が低いのではなく、限られた環境で精一杯治療を行っていることを知っていただきたいです。


成功率はさておき、世界中を見渡すと、これほどの低価格で誰もが歯科治療を受けられる国はどこにもありません。日本の歯科医療システムは世界に誇れる素晴らしいシステムであり、絶対に必要な制度であることを強調しておきます。

治療を繰り返さないために

①欧米の専門医レベルの精度の高い治療を受ける

欧米の専門医レベルの精度の高い、成功率の高い治療を受ければ、治療が長持ちするでしょう。しかし、一般的にこれまでお伝えしたような背景があるため、簡単なことではないかもしれません。


②メインテナンスで歯を守る

過去に治療されている歯に対するメインテナンスの効果は限定的かもしれません。しかし、まだ治療していない歯は守ることができます。メインテナンスで治療が不要になれば、成功率もコストも関係ありません。当院が皆様にメインテナンスの大切さをお伝えする理由は、このような背景があるからです。メインテナンスでむし歯の発生と歯周病の進行を防ぎましょう!




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